私と彼の出会い
私が錬金術を学び始めたのは四歳の誕生日のことだった。
仕事でほとんど私に構ってくれなかった父親が、子供向けの錬金術の本を買ってくれたのがきっかけだった。
私は本に夢中になった。何度も何度も練習した。何度も何度も失敗した。それでも、私は錬金術をやめなかった。これを成功させれば、父親に褒めてもらえるかもしれない。ただその一心だった。
やっと小さな馬の置物を作る事ができた時、私は嬉しさがこみあげて叫びたかった。
お父さん見て! 私が作ったんだよ!
その日夜遅くまで起きていたけれど、私が起きていられる時間に父親は帰って来なかった。
やがてセントラルに引っ越す事になった。父親が中央勤務になったからだ。
私は学校に通うようになった傍ら、学校が終わったらすぐに図書館に通って錬金術の本を読み漁った。六歳になる頃には、一通りの錬金術の基礎知識は身についていたし、学校の授業もどんどんつまらなくなってきていた。一日中錬金術の本を読んでいた方が身になる気がしていた。
私はやがて学校に行くふりをして図書館で朝から夜まで過ごすようになった。錬金術の本を片っ端から読んだ。それは学校が軍にいる父親に連絡した事ですぐにバレることになる。
ものすごく怒られた。私は訴えた。学校の授業よりも錬金術が学びたいと。錬金術を最初にやらせようとしたのはお父さんだと。
父親は高等学校の問題集を持ってきて私に突き付けた。「これが解けるか」と言った。私にとっては簡単だった。すべて解いて、それを今度は私が父親に突き付けた。父親はようやく私が学校に行かなくても良いと許可をくれた。
その頃から軍への出入りが始まった。軍の空き部屋で私は図書館から貸りてきた本をひたすら読み続け、錬成を試し続けた。
部屋には私一人しかいなかった。部屋の床で、壁で、いろんなものを作った。より繊細なものを作れるように練習をした。より早く正確に錬成陣を書けるように練習をした。
そんなある日のことだった。
「うおっ、なんだこれ!?」
私が錬成を行っていると、誰かが部屋に入って来てそう叫んだ。
私は驚いて振り返った。見知らぬ、若い男の軍人だった。
「これ全部お前がやったのか? 錬金術だろこれ?」
怒られると思った。床も壁も錬成物でいっぱいだったからだ。
咄嗟にごめんなさいと言った。その人は不思議そうに首を傾げた。
「なんで謝るんだ? いや、すげーよ! まだ小さいのに、よくこんなに錬金術が扱えたもんだ!」
そう言ってその人はパチパチと拍手をした。
私は目を丸くした。私の錬金術をすごいと、褒めてくれたのはこの人が初めてだったからだ。
「お前が噂の軍に通ってるって子供だろ? いやすげえ、ほんとすげえよ!」
それは私がずっと欲しかった言葉だった。ずっと褒めて欲しかった。誰かにすごいなと、よくやったなと言って欲しかった。
目からぽろぽろと涙が溢れて止まらなかった。
「うお!? どうした!? 俺、何か悪い事言ったか!? ごめんな!?」
その人は慌てながら私の近くにやってきて、おろおろしながら私の頭を撫でてくれた。頭を撫でられたのもいつぶりかわからなくて、涙を流したのもいつぶりかわからなくて、私の涙は止まらずに更に嗚咽となって、呼吸が苦しくなるほど泣いた。
その人は私が泣きやむまでずっとそこにいてくれた。
それが、私とマース・ヒューズとの出会いだった。