人の核
リオールの街で、親子が再会をしていた。
「そういえば、ちゃんという子に会ったよ」
「えっ、に!? いつ!?」
アルフォンスが驚いてホーエンハイムに尋ねた。
「一ヶ月くらい前かな。ふらっとリオールにやってきてな。俺の腕引いて路地に攫ってったの」
「……」
アルフォンスは頭を抱えた。やりかねない。ならばやりかねない。
「え、でも父さんとって面識あったの?」
「いや。中央地下にいるあいつと同じ顔だからってことで、引っ張っていったらしい」
そうしてホーエンハイムはふっと笑う。
「俺もお前にしたのと同じ質問をしたんだ。『こんな路地に連れ込んで、俺が敵だったらどうするんだ?』とね。そうしたら『私一人の犠牲で済むなら問題ない』とさ」
「あーもー、はそういうところ……もー……」
アルフォンスは再び頭を抱えた。しばらく会っていないが、自己犠牲の嫌いがあるところは変わっていないようだ。本当に敵だったらどうするつもりだったのか。
「度胸もあるし、頭の回転がとても速い子だった。国土錬成陣のことも、『来たるべき日』のことも全部理解していた」
「えっ、来たるべき日って、『約束の日』のこと? なんでが?」
「ホムンクルスにお友達がいるらしいぞ」
「あー……ついにジュデッカを懐柔したのか……さすが……」
「聞いたのはその単語だけで、あとはすべて自分で推測を立てたらしい。久しぶりに錬金術の話を誰かと出来て楽しかったよ」
ホーエンハイムは笑って言う。
「にどこまで話したの?」
アルフォンスが問う。
「全部話した。クセルクセスの話から全部」
「、信じたの?」
「はあ、の一言だけで驚きもせずに全部信じたよ。すごいなお前の友達」
「はそういうところ柔軟だからなあ。ボクもすごいと思うよ」
うんうん、と頷いてアルフォンスが言う。
決して錬金術の型にとらわれず、常識という型にもとらわれず、柔軟な思考が出来るところがの強みでもある。有り得ないなんてことは有り得ない。誰に言われたわけでもなく、自身が体現している。
「そうだ、父さん! のことなんだけど!」
アルフォンスが思い出したように声をあげた。
「は今心臓に賢者の石が埋まっていて、それがないと生命維持ができないらしいんだ。それで、が自分のことを『ホムンクルスのようだ』って言うんだけど……」
ホーエンハイムが頷いた。
「彼女に同じ事を聞かれた」
「えっ、何て答えたの!?」
アルフォンスが急き込んで聞く。あまりにも必死な様子に、ホーエンハイムは苦笑する。本当に、大事な友達なのだろうと思った。
「さっき言っただろう? 俺は分解構築で魂と賢者の石が融合しているけど、核は俺自身だと。彼女も同じだよ。賢者の石はあくまで生命活動の維持にしか使われていない。核が賢者の石であるホムンクルスとは違う」
「じゃあ、は……!」
「人間だよ。ちゃんとした人間だ」
ホーエンハイムが答えた。アルフォンスは今まで座っていた土嚢にまた座り込んだ。ガチャンと鎧が音を鳴らす。そして顔を両手で覆った。
「良かった……うん、やっぱりそうだよ……がホムンクルスなわけないんだ……ちゃんと人間なんだ……良かった……」
その様子を見てホーエンハイムは微笑んだ。
「お前の大事な友達なんだな」
アルフォンスは何度も頷いた。