“お父様”






「来たる日にむけて、お前達の変わらぬ忠誠と安寧を祈る」

 “お父様”と呼ばれるその人物。多くの機械に囲まれている男は、グラスに注がれた赤い液体をぐいと飲みほした。
 周囲にいるのはホムンクルス達。エンヴィー、ラスト、グラトニー……そして大総統――ラースだ。

「そういえば、南部で流水の錬金術師にも会った」
「へぇ?」

 思い出したようにラースが言う。楽しそうに反応したのはエンヴィーだった。

「どうだった? 怪我の具合は?」

 ラストがくすりと笑いながら問いかけると、ラースは頷く。

「うむ。案の定、ほぼ治っていた」
「思った通りね」
「そりゃねー。あの怪我で普通に立ってたんだし。間違いないでしょ」

 ニヤリとエンヴィーが笑う。

「これからどうする」

 ラースがラストに問いかけた。

「ラースは今後も彼女の監視を。どうせなら中央に固定しちゃってもいいんじゃない?」

 その言葉にラースは頷いた。くすくすとエンヴィーが楽しそうに笑う。

「もう一つの切り札は?」
「もうすぐよ。……とっておきのジョーカーだものね」

 不敵な笑みを深くして、ラストが言った。



 目つき鋭く、コツコツと靴音をさせて歩く人物は軍の最高責任者であるキング・ブラッドレイ大総統だった。

「お義父さん!」

 突然背後から少年の声が聞こえる。大総統は歩みを止めた。
 後ろからは大総統に向かって駆けてくる元気な足音。

「おかえりなさい、お義父さん!」
「ただいま、セリム」

 先程までとは全く違う、優しい笑みで大総統が振り向いた。そこにいるのは十歳程の少年と一人の女性だ。

「南部の視察はどうでした?」
「うん。実に充実した視察だったぞ」

 抱きつくセリムの頭を撫でながら大総統は優しく言う。歩いてやってきた夫人がフゥと息を吐く。

「あなた、もう若くないのですから。後進に席を譲ってゆっくりなさったらいいのに」
「いやいや。まだ現役だぞ、私は」

 呆れたように言う婦人に、大総統は困ったような表情で言葉を返す。
 セリムはまた土産話を聞かせてほしいと大総統にせがんだ。今夜ゆっくりと話をしてやろうと大総統は言う。

「そうだ。南で鋼の錬金術師君に会ったぞ」

 思い出したように言う大総統に、セリムは目を輝かせた。

「小さい錬金術師の!? 本当ですか!?」
「セリムはエドワード君の話が好きね」
「だって! 十二歳で国家錬金術師だなんて、かっこいいじゃないですか!」

 にこにこと嬉しそうにセリムは言った。
 セリムは右手を大総統と、左手を夫人と繋いで歩く。

「いいなあ……僕も錬金術を習いたい……」
「そんなもの習ってどうするの?」
「国家資格を取って、義兄さんみたいにお義父さんの役に立ちたいです!」
「はっはっは! セリムには無理だ!」

 楽しそうな会話をしつつ、部屋へと向かって三人は歩いた。