64.地下へ
「なん、じゃ、こりゃー!!!」
とジュデッカは走っていた。
追いかけてくるのは白くて細い人型だ。奇声をあげながら二人を追いかけてくる。
「ちくしょうが。人形に賢者の石で魂を入れやがったな」
「賢者の石が尽きるまで消費させないといけないっての!? やってられるか!」
改めて、賢者の石による魂の錬成は可能なのだとは納得する。あの人形と自分が一緒にされるのは不服ではあるが。
「なんて、文句言ってる場合でもないか」
は立ち止まると、バチィッと大きな錬成光があり、一瞬で巨大な氷の刃を錬成した。それをそのまま人形たちへと飛ばす。人形たちは身体の真ん中から上半身と下半身を分断されて、ばたばたと倒れていく。
「お前っ……」
「へへん。自分の中の賢者の石を使うイメージは出来て来たところ」
左手で心臓を押さえながらは言った。
「馬鹿野郎! 今度のは使った人間が少ないって言っただろ!」
「あーうるさいうるさい! こういう時に使わんでどうする!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐジュデッカが煩いとばかりには両耳を覆った。
「アーアー」
人形は上半身だけになってもまだ動いていた。両腕を動かして前進してくる。
「うげ、まだ動くか」
「当たり前だろ、賢者の石使ってんだから」
「はあ……えーと、人形だから水分はなし、血液もなし、となると外からやるか」
は足下に右手をバンと叩きつけた。パキパキと足下が凍っていき、人形たちは凍って動かなくなった。空気中の水分で表面から氷漬けにしたのである。
「さて。これをどうするか……」
ジュデッカがポケットからペンを取り出すと、左手のひらに何か書き始めた。
「何書いてんの?」
の問いには答えず、ジュデッカは何かを書き終えると、人形たちの前に歩み寄り、凍った人形に左手をあてた。バチィッと激しい錬成光が人形たちの間に走った。氷の溶けた人形たちはばたりばたりと倒れて動かなくなった。
「な……」
「伊達に賢者の石の研究員やってたわけじゃねえよこいつ」
自分の頭を人差し指でトントンと指す。
「作り方を知ってるってことは、壊し方も知ってるってことだ」
そこで、気が付く。賢者の石が物質である以上、壊すことは可能なのだと。その壊し方は、ジュデッカの言い方からして、通常の分解では不可能な方法なのだろう。
「オッケー! 私が足止め、ジュデッカが壊す! これでいこう!」
奥から更に現れた人形たちを見て、二人は構えた。
***
人形たちを排除して、更に先へと進む。上も下も、右も左もパイプだらけで、だんだんと狭くなってきていた。
「ちょっと狭いんだけど!? 本当にこの道で合ってんの!?」
「うるせえな。四の五の言わずに歩けよ」
「歩けって、こんな血管みたいなパイプの中歩きにくいったら、」
ずるっ。後ろに文句を言いながら歩いていたは、太い足下のパイプに足を滑らせ、
「ぬおおお!?」
そのまま下に雪崩落ちた。
「あだだだだ……」
「!?」
「さン!?」
驚いた声が聞こえ、は目を向ける。
「お? エドか。メイも。久しぶり」
久方ぶりに見るエドワードとメイだった。スカーと、見知らぬ三人が一緒だ。
の後に続いて、ジュデッカが跳びおりてくる。
エドワードが俯いて拳を握っていた。
「……どうした?」
が問いかけると、エドワードが真剣な表情をに向けた。
「大佐が、エンヴィーと会った」
「な」
は慌てて立ち上がる。
「案内して」
「お、おい」
「メイ達と先行ってて。後で追いかける」
ジュデッカにそう指示して、はエドワードとスカーと共に走り出した。
「ロイとエンヴィーを会せるわけにはいかないんだよ……!」
はギリと歯を噛んで、復讐に燃えているであろう人のことを思って、急いだ。