63.『約束の日』
「やっほー、チャーリー少佐元気ぃ? ちゃんだよ~」
『いきなり何ですか、今忙しいんですけど』
「くっそ、つれないなあ。東方演習を明日に控えて元気してるかなーと思って連絡したのに」
は街の公衆電話から東方司令部に電話をかけていた。通りすがる人がひそひそと話しているのを横目に、は話を続ける。
「で、セントラル入りする隊は?」
『……さん、動くんですか』
チャーリーの声が変わる。にっとは口元に笑みを浮かべる。
「そ。それで、うちの二人も合流させたいなって思ってさ」
『俺の隊で行きます。大佐とも連携取りやすいですし』
「やっぱりか」
『わかってて俺に連絡してきたんでしょう? さんはそういう人ですからね』
「はっはっは。いやあ、褒めても何も出ないよ」
東方司令部に長く出入りしていただけあって、あちらものことをよくわかっている。チャーリー隊はイシュヴァールでロイの部隊に所属していた集まりだ。
「うちの銃火器マニアがどっさり銃器と弾持ってるから、うまく使ってよ。引き合わせまでは私がやる」
『へえ。頼りにしてますよ』
「じゃあ、当日よろしくね」
『こちらこそ』
短い会話で受話器を置く。
「……やっとだよ、マース」
そこに人がいるように語り掛ける。
「この国は私たちが守る」
そこは、ヒューズが殺害された公衆電話ボックスだった。
***
その日はまるでいつものようにやってきた。
の家の前に車が一台停まっていた。私服のリッドとレインが武装した状態で待っている。そして、軍服姿のジュデッカが立っていた。
「うん、いい天気だね」
相変わらずカンカンと煩い階段を下りる。
「将軍、軍服で行くんすか」
「うん」
「中央軍と間違えて撃たれないでくださいよ」
「そんなへましないってー」
へらりとは笑う。
「これは私の勝負服だからね」
そう言って、バサッと黒いコートに袖を通した。
「勝負服って女性が言うと違う意味に聞こえるんで、気を付けた方がいいっすよ」
「うるさいな!!」
「もー、こんな時まで喧嘩しないでよー」
はあ、とは怒りをため息と一緒に吐き出した。
「二人にする命令は二つ」
は顔を上げ、二人を見た。
「死ぬな。殺すな。以上!」
「「了解」」
二人はびしっと揃って敬礼をした。
運転席にリッド、助手席に、後部座席にレインとジュデッカが乗った。
トランク部分にはレインが用意した銃火器と銃弾が詰まっている。
「まずはチャーリー少佐達と合流する」
「無線入れます」
「……車改造した時につけた無線だなこれは?」
リッドがにやりとしながら無線をつけた。すぐに雑音が聞こえるが、リッドは迷わずにチャンネルを合わせる。
『――西区、セディ隊、マスタング組を発見。交戦中です』
「もう始まってるみたいですね」
レインが拳銃の調整をしながら言った。
「西区に向かおう。少佐達もそっちに向かってるはずだ」
車を飛ばす。
は窓を開け、身を乗り出して周囲を探る。まだ抗争の音は聞こえない。だが、遠くで煙があがっているのが見えた。ロイの炎によるものだろう。
「さん!」
「お」
止めて、と言って車が止まる。見慣れた東方軍のメンバーが建物の陰から現れた。
「少佐! みんなも、元気してる?」
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
「そっちもね」
はそう言って車から降りる。レインも一緒に降りて来た。
「電話で言ってた二人。あんまり物持ってこれなかったでしょ? レインから分けて貰って」
「好きなの持ってってくださーい」
トランクを開けてどっさりと入った銃火器と銃弾を見せる。
「……マジでマニアっすね」
「でしょー」
真顔になるチャーリーにが笑った。
わいわいとレインが持って来た銃火器に群がる兵達をよそに、とチャーリーが会話を続けていた。
「ロイが西区で交戦中。このまま西に向かって合流して」
「了解」
「近くまで行けば大佐の大砲で場所わかりますからね」
レインのコレクションを漁っていた兵の一人が笑いながら言った。も笑って頷き返す。
「ジュデッカおりて。ここから私たちは歩き」
はトランクから中に呼びかけた。ジュデッカが降りてくる。
「二人は中央軍の戦力を削いでいって。いくつも小隊を動かしてるみたいだけど、中央軍はまともに攻め入られた事が無いから、勝手がわからない。だから統率なんて取れてないと思う」
誰が指揮を執っているかは知らないが、セントラルの上層部にまともな指揮が執れる者がいるとは思えない。きっと部隊はバラバラだ。
「了解です。分隊レベルなら十分やれますよー」
レインがにこりと笑って言う。
「無線聞きながらマスタング大佐の補佐していきます」
「よろしく」
リッドの言葉に頷いて返す。
「それじゃ、俺達は行きます」
「うん、よろしくね」
チャーリー隊も走っていなくなった。
そうしてジュデッカと歩き出そうとした時。
「将軍!」
リッドに呼び止められる。
「死ぬな、殺すな! ですよ!」
振り返るとレインにそう声をかけられる。
ふっとは笑った。
「了解」
右手で敬礼をして、はジュデッカと共に歩き出した。
「さて、どこから地下に入ろうか。案内よろしく」
「この近くなら第二研究所の近くに入口がある」
「よし、行こう」
黒いコートを翻し、はジュデッカと共に地下へと向かう。