48.賢者の石







「大佐!」
「やあ鋼の」

 エドワードとアルフォンスがその後連れて来られた部屋には、ロイと大総統がいた。大総統はゆったりと紅茶を飲んでいた。

「座りたまえ」

 大総統が言った。

「……何があった?」

 エドワードが尋ねる。

「いろいろあったぞ。てんこ盛りだ」

 ロイは息を吐く。

「フュリー曹長は南。ファルマン准尉は北。ブレダ少尉は西に飛ばされた。ホークアイ中尉は大総統付き補佐だそうだ」
「なんだそりゃ!!」
「上層部の『一部』どころではなかった。『全て』真っ黒だ」

 ロイが二人を見て言った。
 あっ、とエドワードが思い出したように声をあげた。

「そうだ、大佐。悪い……が奴らに連れていかれちまって……」
「何だと!?」

 ロイが思わず立ち上がった。ティーカップが揺れ、紅茶が飛び散った。

「安心したまえ。治療さえ終われば、彼女はすぐに解放する」
「治療?」

 大総統の台詞に、眉を寄せる。

「座りたまえ。なに、傷ひとつさせずに返すから、安心しなさい」

 三人は怪訝そうな顔を合わせ、仕方なくテーブルについた。


***


 ゆっくりと目を開いた。ここ最近はなかった、気持ちの良い目覚めだ。

「目が覚めたか?」
「っ!」

 飛び起きる。椅子に座って頬杖をついてこちらを見てくるのはシュウ・ライヤーだった。

「なんで……」

 そして、ハッとする。自分は心臓を刺されたはずだ。胸に手をあてる。……傷はない。自分の吐き出した血で真っ赤に染まっているだけだ。

「治療は終わった。帰っていいぞ」
「治療……?」
「身体楽になっただろ」

 確かに、ここ数ヶ月あった身体のだるさがない。常に疲れたような気がしていたのに、それもない。呼吸も楽になった。胃の不快感もない。入院していた時の症状がすべて改善されたような気がした。

「何をしたの」

 が睨みつける。

「なに。賢者の石を取り替えただけだ」
「なっ……!」

 ガタンとが立ちあがる。

「……あんた、何なの」

 が睨みつける。シュウがつまらなさそうな目でを見上げた。

「俺はジュデッカ。シュウ・ライヤーの身体で造られた、八番目のホムンクルスだ」
「……やっぱりか」
「なんだ、わかってたのかよ」

 つまんねーな、とジュデッカは言う。

「あんたがシュウの身体を被った何かだっていうのは予想していた。まさか当たりだとは思わなかったけど」

 シュウの記憶を持った何かである。これは入院中ずっとが考えていたことだ。
 それが、八番目のホムンクルス、ジュデッカという人物であるという。

「私が出て行った後に、シュウの身体を回収したの」
「ご名答」

 ジュデッカは愉快そうに笑った。

「お前が火の回った小屋から出て行った後、こいつは死んだ。だが、その死体は小屋が燃え尽きる前に、エンヴィー達によって回収された。その回収された死体に、親父殿から賢者の石を入れられれば、失った下半身は再生成されて元通り。シュウ・ライヤーをベースとしたホムンクルスの完成だ」
「……記憶は肉体に残る。だから、別の魂が入っても記憶は残ったまま……」

 やはりそうだ。仮定は正しかった。別の魂が入っても、肉体が同じであれば、記憶は引き継がれる。

「……ジュデッカ。あんたにシュウの記憶があるなら教えてほしい」

 は再びベッドに腰をおろしながら言った。

「私は、どうやって生き返ったの」
「……」
「賢者の石を使ったの?」

 ジュデッカは目を丸くした。そして嘲笑するように笑った。

「ハッ。馬鹿な奴だ。必死になってその研究をしていたことを隠していたのに、結局バレてんじゃねえか」

 ジュデッカはを嘲笑っているのではない。シュウを嘲笑っているのだ。

「その通り。シュウ・ライヤーは賢者の石でお前の魂を錬成した」
「それは……その錬成された魂は、元々私だったものじゃないでしょう」

 はひとつひとつ確認するように問いかける。

「死者が生き返ることなんてないんだから」
「ああ、そうだ。死者が生き返らないことなんて、こいつは良くわかっている」

 ジュデッカはを指差した。

「こいつが錬成したのは、新しい魂。そして、その錬成に賢者の石を使った」
「やっぱり……私は、死ぬ前と、まるっきり同じ私として生き返ったわけじゃないってことだね。……いや、待って。さっき、賢者の石を取り替えたって言ったよね」

 ジュデッカはにやりと笑う。シュウがしなかった笑い方だった。

「こいつは死ぬ前に、お前の体内に賢者の石を埋め込んだ。お前はずっと、心臓に賢者の石を持っていたんだよ」
「なっ」
「不思議に思ったことはなかったか? 例えば、怪我の治りが早かったとか。死ぬほどの怪我をしても一命を取り止めたとか。錬成陣なしに錬成できたり、質量以上の量の錬成が出来たとか」
「……」
「覚えがあるだろ」

 覚えは、確かにあった。小さな怪我はすぐに治った。少し大きな怪我をしても、入院するほどではなかった。すぐに治ったからだ。錬成陣を使わなくても錬成したり、質量以上の錬成をしたことも記憶にはある。怒りで、無意識に錬成を行った時だ。
 だが、それもみんなラストとの戦いが最後だった。あの時の怪我はなかなか治らなかったし、今まで尾を引いていた。ずっと続いていた体調不良はその時の怪我が原因だったという自覚はある。

「お前の身体は死んだ時ボロボロだった。賢者の石を入れでもしなければ、回復しない程にな。腹の傷は、完治させた方が軍に目をつけられると奴が判断したから完治させなかった」

 それでも治したほうなんだぜ、と言ってジュデッカはを指差す。自分の腹に手をあてた。古傷は今でもの行動を制限させる要因になっている。

「だが、お前はこの四年の間に、その体内にある賢者の石のエネルギーのほとんどを使い切ってしまった。ったく、どんな生活したらそうなるんだか」

 呆れてジュデッカはため息をついた。

「最近、ずっと身体の調子が悪かっただろう。賢者の石が無ければ、お前の身体はまともに動かないんだよ」
「……だから、新しい賢者の石に入れ替えた、と?」
「そういうことだ。調子良くなっただろ」

 確かに調子は格段に良くなった。それを知って、自分は本当に賢者の石に生かされているのだと気付かされる。あのホムンクルスの親玉と呼ばれた男に心臓を突き刺されたのは、恐らく残りカスの賢者の石を抜き取られた。それからの記憶はない。

「下手に無茶して石のエネルギー使い切ってみろ。今度入れたのは、前のより使った人間が少ないから、何年もしないうちに今度こそ死ぬぞ」
「……そうまでして、どうして私を生かすの」

 がジュデッカを睨みつける。

「人柱候補だから生かしてる。それだけだ」
「人柱って何なの」

 ジュデッカは肩を竦めただけだった。答える気はないようだった。はその話は置いておくことにした。

「……シュウが賢者の石を持っていたなら、逆におかしいところがある」

 はジュデッカをまっすぐに見る。

「賢者の石は無を有に変える石でしょう? じゃあ、リバウンドなしに私の魂の錬成もできたはずだ」

 ジュデッカはにんまりと笑った。

「ハハッ! それを聞くか? 愉快な話にしかならないぜ?」

 ジュデッカは立ち上がり、の目の前にやって来た。そして、ずいと顔を近づけた。

「こいつは最初は賢者の石を使う気はなかった。だから、普通に人体錬成で魂を錬成しようとした。それであのザマだ」
「どうして使わなかったの」
「間抜けな話だ。こいつはお前と出会って、この悪魔の研究から一切合切手を引きたくなった。その持っていた賢者の石こそ、自分が大量の死刑囚を使って作ったものだっていうのになあ」

 ジュデッカは笑う。

「でも、結局使わなければお前を生き返らせることができないとわかった。だから使った。そういうことだ」

 ジュデッカはそう言うと、から顔を放し、ため息をついた。

「……こいつはお前を助けたかったわけじゃない。ただ、逃げたかっただけだ」

 ジュデッカが見る先には鏡があった。そこに写っている姿はシュウ・ライヤーのものだ。

「お前を助けるという大義名分の下、自分が死ぬことでホムンクルスどもから逃げようとした」
「逃げる……シュウが……」
「高尚な理由で助けられたかと思ったか? 残念だったな」

 にやりとジュデッカは笑う。

「話は終わりだ。そこから出れば外に通じてる。もう来るなよ」
「……」

 ジュデッカは椅子に戻って、ガチャンと音をさせて座り込んだ。
 は立ち上がる。ジュデッカをしばらく睨みつけた後、言われた通り、扉から外に出た。
 中央司令部の近くであることがわかった。もう、夜になっていた。
 そういえば血まみれだったなと思い、は羽織っていたパーカーを脱いだ。半袖でいるには肌寒く、早く家に帰ろうと思った。いろいろと頭の中も整理しなければならない。

ッ!」

 声と足音が聞こえ、は振り返った。

「エド、アル」

 二人が慌てた様子で駆けよって来た。

「お前っ、無事だったのか!?」
「うん、全然大丈夫。二人も無事でよかった」

 今走ってきた様子を見ても怪我をしてはいないようだ。エドワードが額に絆創膏を貼っていた。

「一体何が……」

 はぽりぽりと頬を掻いた。

「二人、時間大丈夫? まだ眠くない?」
「え? ああ、オレ昼間寝すぎたくらいだし、大丈夫だけど」
「ボクは眠らないから、全然大丈夫」
「ああ、そっか」

 がくいと親指で前を指した。

「うち来ない? 歩きながらする話じゃないからね」

 二人が顔を見合わせる。

「兄さん。お邪魔しようか」
「そうだな」

 そう言って、エドワードとアルフォンスを連れて、はセントラルの夜の街を歩いた。
 出た場所が中央司令部近くで良かったとは思った。寮が近いからだ。
 カンカンと音を鳴らして階段を上り、一番奥の部屋の鍵を開ける。

「お邪魔しまーす」
「どーぞ」

 電気をつけて、二人を入るように促す。

「へー。お前、将軍なのにフッツーの寮に住んでんのな」

 部屋の中を見回しながらエドワードが言った。

「ボク、二回目だな」
「そうなのか?」
「うん。前にが血吐いてフラフラしてた時に、ウィンリィと一緒に送って来たんだ」
「お前……年下に送られなきゃならない程だったのかよ」
「あーうるさいうるさい。それについても話すから」

 座ってて、と言っては奥の部屋に引っ込み、服を着替えた。血まみれのパーカーはゴミ箱に突っ込んだ。

「なに飲むー?」

 キッチンに立ちながらが問う。

「何でもいいよ」

 ソファでくつろぎながらエドワードが言った。

「ホットミルクでも?」
「すみませんコーヒーお願いします」
「はいはい」

 最初からそう言えばいいのにと思いながら、インスタントコーヒーをマグカップ二つに用意し始める。
 その時、急にドアがドンドンドンと激しく叩かれた。思わず警戒する。
 が眉を顰めながらドアスコープを覗き、ため息をつきながら鍵を開けた。

!」

 ドアをぐいと引いて、ロイが部屋の中に強引に入って来た。

「部屋の明かりが見えたから、帰っているのかと……! ホムンクルス達に連れていかれたと聞いたぞ!? 大丈夫なのか!? どこか怪我は……!」
「何だ大佐かよ」

 奥でソファから顔を覗かせながらエドワードが言った。警戒して損をしたと言いたげだ。

「鋼の?」
「まあ、入りなよ。いろいろ面白くない話しようとしてたところだからさ」

 そのまま玄関にロイを放置し、はキッチンへと戻って来てマグカップをもう一つ追加した。ロイはドアの鍵を閉めると、部屋の中に入って来た。

「どうして君たちがいるんだね」
「どうして大佐がいるんだよ、と同じだと思うんだけど」

 エドワードが足を組んで文字通りくつろぎながらロイを見上げて言った。みんなを心配して集まったというわけだ。
 あちち、と言いながらはマグカップを三つ持って戻って来た。それをエドワードとロイの前に置き、自分の分を持ったまま座った。
 はコーヒーを一口飲む。三人の視線がに集まっていた。

「じゃあ、始めますか。面白くない話」

 はジュデッカとした話をすべて話した。
 自分の体内に賢者の石が入っており、それは新しいものに取り換えられたこと。おかげで、今まであった体調不良がすっかりなくなったこと。
 ジュデッカはシュウの遺体を使って造られたホムンクルスであること。
 そもそもどうしてスカーと一緒にいたのかという問いには、偶然出会って停戦を結んだのだと答えた。

「というわけで、私がエドに話した仮説は正しかったってこと。あの時まで生きていたと、あの時生き返ったは厳密に言えば違う人間なんだ」

 はコーヒーを飲みながらそう言った。

「……随分冷静に言うんだね」

 アルフォンスが言う。うん、とは頷いた。

「この仮説、もう事実になったけど……これ、私の中でしっくりくるっていうか、変な感じしないんだ。腑に落ちるっていうか」

 そしてロイの方を見た。

「それに……事件前の私と今の私、別に変らないんでしょ?」

 ロイは頷いた。は肩を竦める。

「だったら、そう深く考える必要もないかなって思って」
「シュウ……ジュデッカの方はいいのかよ」
「うん、まあ……複雑ではあるけど、からくりがわかっちゃえば。結局あいつも私と同じなんだ。死体に新しく魂突っ込まれた形で、こうして生きてる」

 はまたコーヒーを啜る。

「そう考えると、私はホムンクルスみたいなもんなんだな」
「おい、!」

 鋭くエドワードの声が響いた。
 他の二人もを見ていた。

「そう睨まないでよ。事実を言ってるだけなんだから」

 そう言っては苦笑する。

「それで。そろそろそっちの話も聞かせてよ。昨日何してたの?」

 今度はエドワード達の話に移った。
 スカーを探していたのは、ホムンクルスをおびきよせようとしていたためだったこと。グラトニーを捕獲したこと。大総統がホムンクルスだとわかったこと。エドワードとリンとエンヴィーがグラトニーに飲み込まれ、無事に生還したこと。エドワード達がいなくなったため、アルフォンスはグラトニーと行動を共にしていたこと。そして、ロイの部下達が左遷されたこと。こちらの方が盛りだくさんだった。

「イシュヴァール戦の発端はエンヴィーが起こした」

 トントンとマグカップを指で叩きながらは繰り返す。

「大総統が人間ベースに造られたホムンクルス。上層部は真っ黒。で、ロイの部下達は左遷、おまけに中尉は大総統付き、と……ロイ、ちょっと焦りすぎたね」
「言ってくれるな……」

 ロイが眉を寄せた。

「あんまり驚かねえんだな……」
「ホムンクルスと上層部が関わりがあるだろうことくらいは予測していた」
「何だと!?」

 ロイがマグカップをテーブルにガンと置いた。

「大総統府直下の錬金術研究所で賢者の石を作るような実験をしていたのに、上層部がまったく絡んでないとでも思ってたの?」

 は逆に呆れた顔を向ける。

「確信を持つためのピースが足りてなかったんだ。けど、大総統もホムンクルスで、あのおっさんどもはみんな黒か。まあ、わかりやすく繋がってくれたもんだ」

 はコーヒーの残りを全部飲み干した。そしてマグカップをテーブルに置く。

「私を中央に留めるようにしたのも、下手にあちこち嗅ぎまわったりしないで、目の届くところに置いておきたかったからか。ダブリスの件で完全に目つけられたな。偶然だってのに」

 は頬を膨らませる。ロイが眉を寄せた。

「ダブリスと言えば。お前、少佐に『大総統に忠誠は誓った事がない』と言ったそうだな。もう少しそういう軽率な発言は控えるべきだぞ」
「いきなり上層部に乗り込んで手ごままとめて失った軽率な大佐殿には言われたくないわ」
「ぐっ……」

 ロイは言い返すことが出来なかった。がにんまりと笑う。

。お前、これでもまだ軍にいるつもりかよ」

 エドワードが問いかけた。

「もちろん」

 はすぐにそう答えた。

「私はイシュヴァールでたくさんの人の死を見たよ。殺すところも、殺されるところも、たくさん見た」

 が初めて目を伏せた。ロイも過去を思い出すように眉間に皺を寄せる。

「だから、私は殺さない軍人になろうと思った」
「殺さない軍人?」

 視線を上げる。

「命令が下れば人を殺さなければならないかもしれない。だから、上からの命令なんて来ないように、命令違反しても文句を言われないほどに、それでも軍が手放せないと思うくらいに、自分の地位を上げればいい。そうやって私は短期間で上層部に喰らいついた」

 その上層部はみんなホムンクルス達の信奉者であったが、それはそれだ。

「私は軍に入ってもうすぐ八年になる。救えなかった命はたくさんあるけど……私自身が殺したことは一度も無い」

 両手を開いて見つめる。

「救えない命も無いくらいに力をつけたい。私はまだまだだ」

 そう言って両手を握る。はエドワードの方を見た。

「国家錬金術師だからって、殺さなくてもいいんだよエド。ただ、それは殺す覚悟よりも大変なものだよ」
「……」

 エドワードは俯いて、膝の上で両拳を握った。


 お互いの情報交換が終わったということで、今日は解散となった。明日からは、また新しい日常が始まるのだろう。周りが敵だらけという、日常にだ。

「あー! エド、帰る前にちょっと」
「なに?」

 エドワードが振り返った。

「あんたが第五研究所で見たっていう、賢者の石の錬成陣。あれだけ教えてってくれない?」

 が手帳の白紙ページを一枚破いてペンと一緒に差し出した。

「いいけど、なんでまた」

 受け取りながらエドワードが言う。

「こっちもこっちで調べようと思ってるだけ」

 エドワードは壁を机代わりにして、覚えている賢者の石の錬成陣を描き始めた。

「ほら」
「ありがと」

 渡された紙とペンを受け取る。

「じゃあ、おやすみー」
「ああ」
「おやすみー」
「またね、

 帰って行く男達に手を振って、はドアを閉め、鍵をかけた。部屋の中に戻りながらエドワードに書いて貰った錬成陣を見る。そして、足を止めた。

「えっ……?」

 は慌てて部屋に戻って全国版の地図を持って来た。そして、邪魔なマグカップを脇に避け、地図を広げた。暗号だらけの手帳をめくる。

「1914年、リオールの暴動、死者多数……1911年5月第二次南部国境線……1908年イシュヴァール殲滅戦……1835年10月第一次南部国境線……」

 一か所ずつ地図に丸をつけていく。

「1811年3月、ウェルズリ事件……1799年2月ソープマン事件……場所はフィスタ……1661年10月カメロン内乱、1558年7月リヴィエア事変……」

 は左手で口元を覆う。

「西は今、国境線でドロドロしてる……北はいつドラクマと戦争になるかわからない……」

 エドワードが置いて行った錬成陣を確認しながら、地図の上に線を引き、最後に円で囲った。

「……はは、はははは」

 ペンを投げ出し、はソファの背もたれに身体を投げ出した。笑いながら、両腕で目元を覆う。
 もっと早くに錬成陣を教えて貰えば良かった。過去の血の流れる事件は調べていた。照らし合わせるのは簡単だったはずだ。
 そしてリヴィエア事変はアメストリス国建国直後の事件だ。この国は小さな領土の国だったが、周囲の国を併呑しながら領土を大きくして来ていた。円が描けるように。要領よく。

「マース……やっと追いついたよ」

 アメストリス国全体に、賢者の石の錬成陣が描かれていた。