暗闇を走っていた。
 明かりはない。星も月もない闇夜をぼくは走る。手を伸ばしてもなにもつかめず、ただただ足を動かして、この出口もわからない暗闇から抜け出したい一心だった。
 何かに追われているわけでもない。恐怖はこの場合外にはない。外敵はいなさそうだし、物音も聞こない。ただ、ぼくが、この暗闇に留まりたくないと思っている。それだけはいけないと、頭にうるさく響く。
 どれだけ走ったかわからない。足がもつれても、千切れそうになっても、ここで足を止めれば命の終わりであるかとさえ思う。
 手を伸ばす。何も掴まない。宙を掻くだけ。この暗闇には何もない。何もないのに、なぜぼくは必死に走っているのだろう。
 ――ふと、遠くに灯りが見えた。
 心に火がともる。足に力が入る。あの灯りを目指せばいいのだと直感的に理解した。
 走る。走る。走る。先程までの焦燥感はなく、ただ喜びがある。目指すものがあるのだと、行くべき道があるのだと、それがこの暗闇を走ってきたぼくには嵐の中の灯台のように希望に繋がっている。
 近付くにつれて光は大きくなる。
 手を伸ばす。
 ぼくの手を掴む、手があった。

「灯りも持たずに走っていたのか。君は馬鹿だねえ」

 揺れる提灯を持った友が言う。
 ぼくはなんと言うべきかの言葉も見つからず、ただへらりと笑った。頬を一筋の涙が伝った。